交通事故の被害者に後遺障害が残存した場合、日常生活を営むために、今までは必要のなかった装具・器具を購入する必要性が生じます。

例えば、車いす、義歯、義眼、義手、義足、メガネ、コンタクトレンズ、盲導犬の費用、電動ベッド、介護支援ベッド、エアマットリース代、コルセット、サポーター等があります。

このような装具・器具の必要性が認められる場合の購入費用については、将来にわたって認められる可能性があります。

基本的には、その器具・装具の耐用年数を前提に、何回買い換える必要があるかを算定し、損害額を計算します。

なお、注意を要するのは、各器具の耐用年数に明確に決まったものはなく、裁判例によって異なることがあるという点です。ここは、その事件においてどのような主張がなされたか、どのような証拠で証明しようとしたかに左右されると考えられます。

○仙台地裁平成21年11月17日判決は、16歳男子(1級)の将来の介護器具代として1608万4970円を認定し、次のように判示しました。「加害者側は、介護器具の購入にあたっては公的扶助があることを主張する。しかしながら、これまで述べてきたとおり、かかる公的扶助が将来にわたって確定的に受けられるか否かは必ずしも明らかではないうえ、すでに受給した部分についても、本来、公的扶助と損害賠償は異なる理念に基づくものであり、公的扶助の支弁者が損害賠償請求権を代位するということも予定されていないことからすれば、公的扶助の存在をもって上記の認定額を覆すことは相当でない。」

この判決は、将来の介護費用の下級審裁判例に出てくる論理と同様の論理で、装具・器具の損害額を認定しています。

つまり、介護器具についても公的な扶助があるため、現時点においては、購入した場合にある程度負担が小さい(安く買える)。しかし、このような公的な制度が将来も存続するかどうかはわからない。だから、損害額算定の際には公的扶助を得られることを前提にすべきではない、公的扶助がない前提で算定するというものです。

○大阪地裁平成21年1月28日判決は、3歳男子の介護器具代について、ベッドマットレス等の耐用年数を5年、電動ベッドの耐用年数を8年と認定したうえ、公費による給付部分は初回のみ(つまり既に購入した分についてのみ)考慮し、公的補助は今後そのような助成制度が継続されるかどうかは不明であるとして、将来分は公的補助を考慮しないと判示し、1121万0965円を認定しました。

○東京地裁平成20年4月8日判決は、足関節装具の耐用年数を2年と認定し、2年ごとに買い換える前提で損害額を認定しました。

○名古屋地裁平成19年10月16日判決は、車いすの耐用年数を5年、痰吸引器の耐用年数を5年と認定し、損害を算定しました。

○大阪地裁平成18年6月26日判決は、介護ベッドの耐用年数を8年と認定しました。

○名古屋地裁平成17年10月4日判決は、外用車いすの耐用年数を7年と認定しました。

○さいたま地裁平成16年8月23日判決は、義足の耐用年数を5年と認定しました。

○福岡高裁平成17年8月9日判決は、義足の耐用年数を3年と認定しました。

○名古屋地裁平成15年3月24日判決は、手動車いすの耐用年数を4年、電動車いすの耐用年数を5年と認定しました。

○東京地裁平成15年1月22日判決は、電動車いすの耐用年数を6年と認定しました。