個人事業主のような事業所得者が、交通事故の被害にあって、仕事を休業することになった場合、休業損害は原則として前年の申告所得額を基礎に算定します。

○青色申告をしている場合は、青色申告控除がなされる前の金額を基礎とします。

○所得の中に近親者の労働分が含まれている場合は、近親者の労働分を引いた金額が所得額となります。例えば、奥さんが仕事を手伝っているが、奥さんには給与を支払っていない場合

この場合は、被害者本人の収入に対する「寄与度」により、収入額を算定します。

○逆に、近親者が現実に仕事をしていないにもかかわらず、専従者給与等を支払っている場合はその給与分も含めて所得を算定します。たとえば、現実には奥さんは仕事を手伝っていないにもかかわらず、専従者給与を支払っている場合

○前年度の申告額よりも高額な収入が得られているようなときは、立証書類があれば認められます。

○年度間で変動が大きい場合は、複数年度の申告額を参考にします。

○確定申告は、節税のためにかなり低めにするようにしていたというような場合は、立証資料があれば、主張する所得額が認められることもあります。

 

○東京地裁昭和62年6月19日判決は、お好み焼き店経営者について、前年度の確定申告書を基礎に、個人飲食業者の税務申告の実態をある程度考慮し、前年の売上げを1000万円と認定し、経費率を60%とし、400万円を休業損害算定の基礎となる収入とすると判断しました。

○大阪地裁昭和62年7月17日判決は、無免許で自動車運送業を営んでいた事案について、確実性、永続性において不安定ではあるが、休業損害を認めました。

○大阪地裁平成5年1月12日判決は、妻を専従者として給与をしはらっていた土木工事事業者について、妻の労働の実態から、本人の申告所得額322万2700円に妻の専従者給与額84万円を加えた406万2700円を休業損害算定の基礎としました。

○名古屋地裁平成4年7月29日判決は、赤字申告をしていた喫茶店経営者について、妻に先住者給与として120万円、長男夫婦へも220万5000円を支払っていたことから、賃金センサスの65歳以上男子平均給与の3分の2以上の収入があったものと認定して、184万5600円を基礎に算定しました。

○大阪地裁平成6年8月26日判決は、申告所得額120万円の大工について、本人主張の1日1万円の収入の7割である日額7000円は得ていたと認定し、事故後150日間は全額、その後298日間は半額の休業損害を認めました。