東京地方裁判所平成15年5月8日判決は、左坐骨神経損傷の治療をするために、わざわざアメリカに行って、アメリカの病院で入通院した事案において、「わざわざ米国の病院で治療を受ける必要性があったと認定するのは困難である」として、高額な治療費の50%程度のみを治療費として認めました。
アメリカで受けた治療が、当時日本で受けられない内容のものであったとことを認めるに足りる証拠はないことを理由としています。
逆に言えば、世界中でその病院でしか治療できないような内容の症状であれば、アメリカに行っても治療費全額が認められる可能性はあるかもしれません(そのような症状や治療方法があるのかはわかりませんが)。
この判決では、触れていませんが、アメリカに行った場合の飛行機代等を請求した場合に認められるかという問題があります。
おそらく、アメリカでの治療の必要性を否定している以上、交通費は認められないと思います。
同様の問題は、日本国内でも生じます。
治癒しにくい症状の場合に、福島県に住んでいる人が、わざわざ東京の病院に通院した場合、その新幹線代などの交通費を損害として認められるか、という問題です。
この問題も、東京の病院でなければ、同じような内容の治療が受けられないということを証明しなければ難しいと思います。
現実問題としては、腕のいい医師が遠方にしかいない、という問題は生じ得ると思います。
しかし、それが損害として相手に請求できるかどうかは別問題と考えるべきです。
なぜなら、医療の水準として、相当な違いのあることを証明することは難しいからです。
遠方にいる医師の評判がいいことと、その医師でなければ治療できないこととは違うレベルの話です。
なお、日本国内であれば、治療費は外国の場合のように極端に高額という違いはないので、先にあげた判決のような高額治療費の問題は生じないと思われます。