交通事故の被害者が、いわゆるむち打ち(頚椎捻挫、外傷性頚部症候群など)や腰椎捻挫等で整骨院に通った場合、その治療費はどの程度認められるでしょうか?

この問題は、一律に答えの出る問題ではありません。

①医師の指示があった場合は認められることに問題はありません。

②医師の指示がなくても、必要性があって、治療の効果が上がっている場合は認められやすいと言えます。

ただし、必要性や治療の効果が上がっているかどうかというのは非常に微妙な判断です。

裁判上争われた事例を例にとって考えると、重要となるのが整形外科への通院日数と整骨院への通院日数のバランスです。

損害賠償実務の基本的な考え方は、治療をするのは医師であり、つまり整形外科に通うことが基本であるということになります。整形外科の治療を補完する意味で整骨院への治療も有効だと判断されれば治療費が全額認められる傾向にあります。

整形外科に通院した実日数が10日程度なのに、整骨院に100日通院したという場合は、治療の必要性に疑問が出される可能性があるということです。

もう一つ重要なのは、むち打ちも14級や12級の後遺障害等級に該当する可能性がありますが、後遺障害に該当するかどうかの診断書作成は、医師がするものです。

整骨院では後遺障害診断書は作成してもらえません。

そうすると、整骨院のみに通院した場合は、後遺障害等級に該当する可能性が無くなってしまいかねません。

ですから、整骨院に通院することはよいとしても、整骨院への通院と整形外科への通院のバランスは非常に重要です。

○東京地裁昭和59年12月14日判決は、整形外科への通院16日、整骨院への通院85日の事案で、整骨院の治療の2分の1のみの治療費を認めました。

これは、整形外科への通院日数が短いことから、もともとの症状が軽いものと裁判所が判断したと思われます。

○東京地裁平成6年7月22日判決は、整形外科への通院7日、接骨院に93日通院した事案で、接骨院の治療費のうち半額のみを損害と認めました。

この事案も、整形外科への通院日数が短いことから、接骨院に93日も通うほどの症状はなかったと裁判所は判断したものとおもわれます。

○神戸地裁平成7年9月19日判決は、整形外科への通院90日、整骨院(柔道整復師)への通院47日の事案において、「本件治療は医師の指示によるものではないが、被害者がこれにより相当程度以上の症状の軽減回復を感じていることが認められ、治療の必要性、相当性、を肯定することができる」として、整骨院の治療費全額を認めています。

 

以上のように、整形外科への通院と整骨院への通院はバランスが重要です。。

ただし、自賠責保険の120万円の範囲内の治療であれば、現実には保険会社はそれほど因果関係を争うわけではありません。

問題は、交通事故後、治療をしている真っ最中には、最終的にいつ治療が終わる(症状固定)になるかは、必ずしもわからないため長引いて自賠責の枠を超えたときに、加害者の保険会社から争われるケースがあるという点です。

整骨院に通院することは、現実には治療効果のある行為でしょうから、それ自体に問題があるわけではありません。

整形外科に一切通院していないと、後遺障害診断書が書いてもらえないため、後遺障害に該当する事案でも、その道が閉ざされてしまうことが問題なのです。

したがって、定期的に整形外科への通院はしつつ、整骨院の施術を受けることが望ましいといえます。