交通事故の被害者が入院等した際に、医師に謝礼として支払った金員について、損害として認められることもあります。
ただし、もともと、医師に謝礼を支払っていたとしても、社会通念上、相当な金額に限られました。
さらに、平成16年2月に日本医師会が制定した「医師の職業倫理指針」において、「医師は医療行為に対し定められた以外の報酬を要求してはならない。患者から謝礼を受け取ることは、その見返りとして、意識的か否かにかかわらず、何らかの医療上の便宜が図られるのではないかという懸念を抱かせ、またこれが慣習化すれば結果として医療全体に対する国民の信頼を損なうことになるので慎むべきである」との規定が設けられました。
この規定により、医師は謝礼を受け取ってはならないということになりますので、医師に対して謝礼を支払うことが損害としては認められない方向になりつつあります。
大阪地裁民事交通訴訟研究会編著の「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」によると、大阪地裁の運用では、医師に対する謝礼は現在は認めていないとのことです。
全国の裁判所で同じ運用がなされているかどうかは定かではありませんが、今後は認められにくくなるように思います。
○東京地裁平成21年2月26日判決は、43歳男子(併合4級)が担当した医師等への謝礼として合計27万円支払った事案について、10万円を損害として認めました。
○神戸地裁平成6年7月15日判決は、左大腿骨折等の傷害を負い、33日の入院と14日の通院をした事案(併合11級)において、医師への謝礼として23万円支払った事案において、6万円を損害として認めました。
○浦和地裁平成4年8月10日判決は、脳挫傷等の傷害を負って、644日入院した被害者(1級)が医師や看護婦への謝礼として35万9618円の謝礼を支払った事案において、全額を損害として認めました。
○大阪地裁平成2年8月6日判決は、17歳女性(12級7号)が医師や看護婦への謝礼として162万5000円の支出をした事案において、30万円を損害として認めました。
○東京地裁昭和61年5月15日判決は、両眼失明をした24歳男子が、医師や看護師に対して47万2000円相当の謝礼をした事案において、20万円を損害として認めました。