1 被害者 18歳・男子(事故当時)
2 傷害の内容 脾臓破裂、左腎臓破裂など
後遺障害等級 裁判所は症状等を加味し、8級11号と認定しました。
3 逸失利益についての裁判所の判断
① 「腎臓は、①水分の排泄を加減して体内に水分を一定に保ち、②体内の代謝によってできた分解産物や有毒物質を尿として排泄し、③血液中の成分を正常に維持し、血液の酸度を一定に維持する等の機能を有し、人間の生命や健康の維持のための根幹となる臓器であることは被告も認めるところである。
なるほど、被告が主張するように、健康な腎臓であれば、左右1対の4分の1程度になっても人間の生命、健康の維持に必要な腎臓の機能は最小限保たれ、2つの腎臓のうちの1つを失っても生命や健康上何らの問題もないともいえようが、人間の生命、健康が維持できたからといって、労働能力の喪失がないとはいえない。」
②「 また、脾臓は、生命の維持に不可欠な臓器ではなく、これを失っても他の臓器がその機能を代行し特別の支障はないと一般的に言われているが、失ったことにより体が疲れやすくなるとも言われており、医師も過度の運動等の制限を指示することが多いことは被告も認めるところである。
なるほど、被告が主張するように、原告が20代であるから、脾臓の代替機能の回復も高いといえようが、このことをもって、労働能力の喪失がないとはいえない。」
③「そして、将来得べかりし利益喪失による損害を算定するに当って、 労働能力喪失率が有力な資料となることは否定できないところであり、労働能力喪失率は、脾臓を失ったもの(後遺障害等級8級11号)、1側の腎臓を失ったもの(後遺障害等級8級11号)がいずれも45%になるが、後遺障害認定基準は、「脾臓(第8級11号)と1側の腎臓(第8級11号)を同時に失った場合は、併合の方法を準用して第6級相当とはせず、就労状況や日常生活への支障度など総合し労働能力の喪失の程度に応じ等級を認定する。その程度が軽易な労務にしか服しえない状態と判断された場合には第7級5号を適用することになるが、その程度に達しないものは第8級11号に該当する。」
と判示しました。逸失利益は、4318万3614円を認めました。
4 後遺障害慰謝料については、924万円を認めました。
8級相当の後遺障害慰謝料は、平成24年時点で830万円が相当ですので、後遺障害慰謝料はかなり高額に認定したと評価できます。
5 コメント
本件は、脾臓と腎臓の一つを失った点について、被害者の現在の生活状況を詳細に認定し、労働能力喪失率を45%と認定しました。
なお、脾臓を失った場合、平成18年4月以降は13級にしかなりません。腎臓については、等級がいくつかに分かれます。
いずれにしても、後遺障害の逸失利益は各等級の労働能力喪失率を参考にはされますが、裁判所は現実の症状から労働能力喪失率を認定しています。