1 被害者 30歳・女子・主婦
2 傷害の内容
左鎖骨外側端骨折、腰部打撲・捻挫、右大腿部腹部打撲、頭部打撲・挫創等の傷害を負ったが、この点は治癒。0歳の息子が本件事故で死亡したことにより、抑鬱気分やフラッシュバックの症状が出ていた
3 後遺障害の内容
「抑鬱気分、意欲の低下、不安、刺激に対する過敏性、作業能率の低下、一過性の意識変容を認め、明らかに交通事故、息子の死亡による精神的外傷に対する重篤な後遺症があり、日常生活を送ることが困難であり、随時介護を要する」との医師の診断があった。
自賠責は神経症状として、14級10号を認定しましたが、裁判所は7級4号に該当すると認定しました。「心的外傷後ストレス障害による後遺障害として、原告には軽易な労務、日常生活が辛うじて送るのが精一杯な状態が残り、右は等級表7級4号に該当するものと認められる」
4 裁判所の判断
① 逸失利益の判断
裁判所は逸失利益として、1638万7977円を認めました。
「原告の前記後遺障害の内容及び程度によれば、原告は、前記後遺障害により症状固定時から10年間にわたり労働能力の56%を喪失したものと認められる。
そこで、前記収入を基礎とし、右期間に相当する年5分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、原告の逸失利益の本件事故時の現価は、次のとおり1,638万7,977円となる。」
労働能力喪失期間は、原告の症状と「一般的に言って、遺族が悲しいけれど、もう1度、生き直さなければいけないという気持になるのに長い人でも数年から10年くらいであるとも言われていることからすると、原告の右後遺障害の残る期間も長い方で考えても10年間とみるのが相当である。」として10年としました。
② 後遺障害慰謝料 950万円
③ 損害の減額
裁判所は、以下の理由から損害額の20%を減額しました。
「原告の心的外傷後ストレス障害の後遺障害は、原告固有の体質というものより、本件交通事故により原告自身が受けた衝撃と和則を本件事故で亡くしたという衝撃によるものであるといえること、本件事故後、原告は離婚したが、右離婚が原告の右症状に与えた影響はないとはいえるが、しかしながら、心的外傷後ストレス障害は心因性の症状で、交通事故で原告のような悲しい体験をする人は原告だけではないが、それらの人全部が、全部、原告のような心的外傷後ストレス障害の後遺障害が残るわけではないことからすると、本件の場合、やはり原告本人の性格、心因反応を引き起こし易い素因等が競合していると推測できるから、右素因等は控えめに見ても、損害の公平な分担の見地から民法722条2項を類推適用して、原告に生じた損害については、全損害のうち神経症状によって発生した損害の割合も考慮し、 総合して全損害の2割を控除するのが相当である。」
5 コメント
事故により、凄惨な体験をした場合などに、その後もフラッシュバック等の症状が現れ日常生活に困難を来す場合があります。本判決は、事故によるPTSDを正面から認め、しかも、7級4号という高い等級を認定した点で注目すべきものです。
ただし、本件では事故により10ヶ月の子どもが死亡したという事情もあります。
一般的には、PTSDでこれだけ高い等級が認定されるのは難しいように思います。