高齢者が交通事故の被害者になった場合に家族が知っておくべき8つの知識

1 高齢者が被害者となる交通事故の特徴

YB1_79060001 高齢者が何歳以上であるかは、難しいところですが、内閣府作成の交通安全白書によると65歳以上の分類を高齢者という位置づけにしておりますので、65歳以上を前提に話を進めます。

 まず、特徴としては、高齢者は人口が増加しているため、高齢者の交通事故死者数が多いという特徴があります。
 また、高齢者が歩行中等にあった事故は、重篤な結果につながることも多く、平成25年の交通安全白書によると、その致死率は約6.6倍にのぼるそうです。

 致死率が高い原因は、交通安全白書には記載されていませんが、もともと既往症を有していたり、体力が一度低下すると元に戻りにくい、ちょっとした衝撃でも大きな結果につながる等の理由が考えられます。

2 主婦である高齢者と交通事故

photo (1)0002 タイトルを「主婦」にしましたが、「主夫」も同様です。

 高齢者が、交通事故の被害者にあった場合に、まず、確認する必要があるのは、その被害者が家事従事者かどうかです。家事従事者とは、他人のために炊事・洗濯等の家事をしている人のことをいいます。1人暮らしの人は、自分のために炊事・洗濯等をしますが、家事従事者には含まれません。

 高齢者でも職業を持っている方は、休業損害や逸失利益が発生する可能性がありますが、多くの方は無職であると思います。無職の場合は、休業損害や逸失利益を請求することはできません。

 しかし、家事従事者は、それ自体が職業であるために、家事を休まざるを得なかったということにより、休業損害や将来の逸失利益を請求することが可能になります。

3 高齢者と休業損害

 高齢者でも、現実に仕事をもっている方については、年齢に関係なく、休業損害が発生します。ただし、現実には仕事をしておらず、名前だけ「取締役」等になっていて、給料をもらっているという場合は、休業損害は難しいかもしれません。

 また、家事従事者と評価される場合には、対外的な意味で収入がないとしても、休業損害を請求できる可能性があります。

4 高齢者と慰謝料

 交通事故の被害者になった場合に請求できる慰謝料は、大きく分けると①入院や通院をすることにより辛い思いをしたことを慰謝する入通院慰謝料(傷害慰謝料)と、②後遺障害が認定されて、後遺障害を有することになったことに伴う後遺障害慰謝料の二つがあります。

 高齢者の場合も基本的には、慰謝料の考え方は、高齢者ではない場合と変わりませんが、後遺障害が事故とは直接関係なかったり、もともと被害者の方が有していた疾患等が原因で重い障害になったりという場合には、減額されることもあります。

5 高齢者と逸失利益

photo (4)0009 逸失利益とは、事故により、将来の収入が減少する可能性がある場合に、一定割合で、将来の収入減少分(現実に減少するかどうかはわからないので可能性に基づくものです)を賠償してもらうものです。

 将来も収入があること、働くことが前提になりますので、高齢者の場合は、無職の人については、厳密に言うと逸失利益を請求することは困難になります。

 ただし、一見すると無職の場合であっても、家事従事者の場合は、職業があり、減収の可能性があるという評価がされますので、逸失利益の請求が可能になります。

 現実的には、家事従事者や主婦はお金を稼いでいるわけではありませんが、その人が家事をできないとすると理論上は、誰かにお金を払って代わりにやってもらうことになります。そうすると、その分の出費が必要になりますので、主婦が家事をするからこそ、出費が抑えられ、出費が抑えられているということは収入があるのと同じである、と言う考え方をするのです。 

 なお、年金受給者が死亡した場合には、将来にわたって年金をもらえたのにもらえなくなったということになり、収入がなくなるのは、働いている場合と同様ですので、逸失利益として請求できます。平均余命まで生きる前提での計算となります。
 (ただし、年金の種類によります)。 

6 高齢者と被害者の素因

 被害者の素因とは、被害者がもともと有していた事情によって、通常とは別に大きな損害が発生した場合には、加害者だけの責任ではなく、被害者にもともとそのような事情があったということで、被害者も損害の一部を負担すると言う考え方をいいます(素因減額)。

 被害者の素因には、①心因的な要素②身体的な要素の二つがあります。

 ただし、被害者の素因があるとして減額されるのは、被害者が疾患と言えるような病状をもともと持っていたような場合に限られます。よくあるのが、脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアを有していたが、痛み等はなく、症状はなかったというケースですが、このような場合、程度問題ではありますが、通常は素因減額はされないといえます。

 また、高齢者は、骨粗鬆症などにより骨がもろいなどのケースもありますが、単に高齢者というだけで素因減額がなされるわけではありません。保険会社は、そのような主張をしてくるかもしれませんが、冷静に対応する必要があります。

7 高齢者と加重障害の問題

 加重障害とは、すでに「後遺障害」と評価できる障害を有していた場合に、事故により生じた後遺障害からもともとの後遺障害分をひいた評価をすることをいいます。

 例えば、事故により高次脳機能障害となり1級と認定されたケースで、もともと認知症等の症状があったというような場合、加重障害9級とされ、一定の損害賠償額が減額される可能性があります。

8 高齢者が死亡した場合の原因と交通事故との因果関係

photo (8)0005 ここでは、交通事故にあった高齢者の方が、事故による傷病とは別の傷病名で死亡した場合に、死亡の責任まで加害者に負わせることができるか、と言うことが問題となります。

 たとえば、交通事故により寝たきりになってしまった高齢者の方が、誤嚥による肺炎を起こし、死亡したとします。直接の死因は、肺炎ですから事故が直接の原因ではありません。

 しかし、事故がなければ、寝たきりになることはありませんでした。長期入院をしたからこそ、誤嚥しやすい状況が生まれ、肺炎を患いました。高齢者が肺炎を患うと死に至ることがあることは周知の事実です。

 こういう場合に、事故と死亡の結果に因果関係があるのだろうか、と言う問題です。
 ここで問題になるのは、相当因果関係です。法的な問題です。
 医師が認定した死因と事故によって負った傷害がまったく別のものであっても、法的な評価として、事故と死亡との間に因果関係が認められることはあります。

 以下、いくつかの裁判例を紹介します。

1 事故と肺炎による死亡との因果関係を認めた判決
      神戸地方裁判所 平成10年1月30日判決

・被害者は、事故当時71歳の無職の男性。
・既往症 糖尿病及び慢性膵炎、腰椎圧迫骨折、白内障、肺結核、肺気腫の既往症があった。また、本件事故による受傷前からうつ病、自律神経失調症などで石田病院に通院し、種々の向精神薬を内服していた。
・傷害の内容 
被害者は本件事故により頭部外傷Ⅱ型、腰部挫傷などを受傷した。
・被害者は、「交通外傷受傷が精神的要素の悪化を介し、さらに、身体的機能の障害を介して、活動性低下をもたらすことによって、肺炎発症をもたらしたもので、肺炎を直接の死因として死亡したとしても、これらは、通常人おいて予見することが可能な事態といというべきであるから、被害者の肺炎発症と本件事故との間、更には被害者の死亡と本件事故との間には、いずれも相当因果関係があるというべきである。  
・なお、既往症等の存在から損害額の6割を減額した。
・神戸地方裁判所平成14年2月14日判決も、左片麻痺を有する85歳の男性が、事故で肋骨骨折等を負った事案で、肺炎を直接の死因として死亡した事案において、事故と死亡の因果関係を認めている。 
・大阪地方裁判所平成8年1月25日判決も肺炎による死亡と事故の因果関係を認めている。68歳の女性が、左側頭骨陥凹骨折、頭蓋底骨折、外傷性クモ膜下出血、左鎖骨骨折、左多発肋骨骨折、小脳挫傷、左血気胸・肺挫傷等を負い、事故後、しだいに脳萎縮が進行し、ほとんど植物状態になった。意識障害、四肢運動障害により自賠法施行令別表の後遺障害等級表1級3号の認定を受けた。その後、肺炎を発症し、退院ことなく死亡した(死亡時71歳)。
・神戸地方裁判所平成10年9月3日判決は、急性肺炎による死亡と事故との因果関係を認めた。被害者は79歳高齢男性で、事故による傷害の内容は、脳挫傷、外傷性くも膜下出血であった。事故後から意識不明になり、昏睡状態から回復しないまま4ヶ月が経過。急性肺炎を発症し、それから2日後に死亡した事案。

2 胃潰瘍による失血死との因果関係を認めた判決
      大阪地裁 平成9年1月23日判決

・被害者は、68歳男性。
・傷害の内容
頭部外傷、右第3、第4、第5肋骨骨折、右血胸、肺挫傷、腎損傷、左足関節脱臼骨折の傷害。
本件事故によって被害者が受けた外傷と、もともと被害者に発症していた胃潰瘍とが相俟って、被害者が死亡したと認めるのが相当であり、本件事故は、被害者の胃潰瘍を増悪させ被害者を死亡させたものとして、本件事故と被害者の死亡の結果との間には相当因果関係を認めることができる、と判示した。
・なお、素因減額として7割分の損害は控除されている。

3 尿道感染症を原因とする敗血症で死亡した事案で、事故との因果関係を認めた判決
    大阪地方裁判所平成9年11月20日判決

・被害者は、80歳の女性。
・事故当初は、骨に明らかな亀裂は認められず、腰背部捻挫で向後約1週間の加療を要する見込みであると診断された。
数日後、腰椎レントゲン写真にて第3腰椎に圧迫骨折が認められ、頸部、腰部捻挫、腰部打撲(第3腰椎圧迫骨折)の診断を受けた。
被害者は、本件事故後は、食欲が減退し、また、尿量も少ない状態が続いた。直接の死因は尿路感染症を原因とする敗血症であり、本件事故による障害そのものによるものではないことが明らかである。被害者は、本件事故に遭うまでは日常生活には格別の支障はない状態であったのに、本件事故によってほぼ寝たきりの状態となり、これを契機に体力が低下し、既往症と相侯って健康状態が悪化して、ついには死亡するに至ったものと認められるから、被害者の死亡と本件事故との間には相当因果関係を認めることができるというべきである。
損害の公平な分担という見地から、民法722条2項の趣旨を類推して被害者らに生じた損害から一定割合の減額をすべきである。減額すべき割合は2割とするのが相当。

4 肝不全による死亡との因果関係を認めた判決
      東京地方裁判所平成11年2月23日判決

・被害者は64歳男性。
・既往症は、肝性脳症、肝硬変 症状は安定していたものの、状態としては悪かったとも言える。
・傷害内容
胸腹部打撲内出血、背部打撲
・被害者は、「このような状態の肝硬変があったところへ、外傷の影響によって肝不全に陥ったものと認められる」「外傷と肝硬変とのそれぞれの寄与の割合については、医学的な見地から、どちらが何割ということは困難である。」「本件事故と被害者の死亡との因果関係は否定できない。」「一方で、亡Aの病状は悪いながらも安定しており、事故がなければ、この時点で死亡するということはなかったといえる。このような観点からは、本件の事故の死亡に対する寄与割合は60%と考えるべきである。」

5 急性心筋梗塞による死亡との因果関係を認めた判決
      神戸地方裁判所平成12年7月18日判決

・被害者は82歳男性
・傷害の内容 肋骨骨折、後腹部腰部打撲、全身打撲等
・本件事故と被害者の死亡との間には因果関係があることは認められるものの、直接死因は急性四筋梗塞疑いであって、その原因は冠動脈硬化症であり、本件事故による受傷がその発症原因であることを客観的に認めるに足りる証拠はないことに照らせば、被害者の俊一の死亡による慰謝料は1200万円と認めるのが相当である。
・東京地方裁判所平成14年3月12日判決は、96歳女子が歩行中に衝突され、左腓骨骨折、頭部挫創等で入退院を繰り返し、4か月後に心不全で死亡した事案で、事故との相当因果関係を認めた。
・大阪地方裁判所平成14年5月23日判決は、93歳男性が、事故により右大腿骨頸部骨折を負い、事故から約2か月半経過した後に急性呼吸不全により死亡した事案において、手術及び及び長期間の入院生活などから、体力や免疫力の低下に陥ったものと、本件事故との相当因果関係は認めた。なお、そんがいについては70%の素因減額。
・名古屋地方裁判所平成17年1月21日判決は、68歳男性が、事故により骨盤骨折を負い、8日後に腸閉塞を原因とする心不全で死亡した事案につき、事故との相当因果関係を認めた。
・神戸地方裁判所平成10年7月9日判決は、81歳の被害者が、僧帽弁閉塞不全(高度)、僧帽弁狭窄症、三尖弁閉塞不全症の既往症を負っており、事故により脳挫傷の傷害をい、直接の死亡した原因は脳浮腫であった事案において、因果関係を認めた上で事故の死亡に対する寄与度は50パーセントと判示した。

6 認知症発症と事故との因果関係を認めた判決
      神戸地方裁判所平成13年8月8日判決

・被害者は81歳男性
・「アルツハイマー型老年痴呆症について、その原因は、交通事故直後から骨折、もしくは外傷性硬膜性血腫により長期の臥床を強いられたことにある」、「同疾患と交通事故との直接の因果関係はないが、亡被害者につき、交通事故により入院生活を強いられたことが同疾患の発症に大きく関与したと言わざるを得ない」、「脳血管性痴呆とアルツハイマー型老年痴呆とは合併の関係にあり、外傷による硬膜下血腫あるいは器質性脳障害は脳血管性痴呆の直接原因と考えられるし、その後の身体的治療のためやむを得ず長期の入院加療を要したことが2次的にアルツハイマー型老年痴呆症を引き起こした」
・名古屋地方裁判所平成14年8月16日は、71歳女性がバスを降車中に扉に左肘が挟まれ、左肘打撲症を負った事案において、その後、脳梗塞・左片麻痺の障害を残した事案において、相当因果関係を認めた。なお、被害者にもともと多発性空洞性脳梗塞が認められたことから、損害の6割を減額した。

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