1 被害者 16歳 男子
2 傷害の内容
頭部外傷Ⅲ型、意識障害
3 後遺障害の内容
意識障害、四肢麻痺等 1級3号
4 裁判所の逸失利益の判断
① 推定余命について
「本件事故による脳の器質的障害により、生命維持について特段の障害があるとは認められない。また、感染症等に罹患する危険性については、その危険性が通常人よりは高いとはいえ、それを考慮した介護がなされていれば、その危険性は回避できるものといえる。」
この点、被告らは、(被害者)「の推定余命を20年から25年と主張し、医師の意見書、脳損者への介護料支給の実態を集計した自動車事故対策センターの資料を1つの根拠とする。」しかし、上記意見書によっても、被害者「が20ないし25年後に死亡すると推定することにつき合理的な裏付けがあるとは認めがたい。また、事故対策センターの資料は、過去一定期間についての統計にすぎず、しかも、そのサンプル数は極めて少ないものであるところ、今日の脳損者を巡る医療の進歩を考慮すれば、脳損者の余命を一般人より制限するについて、十分な合理性があるとはいえない。」他に、被害者「の推定余命を一般人より制限すべき具体的な事情は認められないから、被告らの主張は採用できない。」
「したがって、平成7年度簡易生命表男子平均余命と照らし、」被害者「の推定余命を事故時の16歳から77歳までの61年間とするのが相当である。」
② 逸失利益 9、477万4、008円
被害者「は、本件事故により後遺障害別等級表1級3号に該当する後遺障害を残し、労働能力を100%喪失したものと認められる。」「本件事故に遭わなければ、18歳から67歳までの49年就労可能であり、年収575万0、850円(平成9年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の全年齢平均年収額)を得ることができたと認められるので、ライプニッツ方式により年5%の中間利息を控除して逸失利益を算定する」
③ 生活費控除について
「なお、被告らは生活費を控除すべきと主張するが、」被害者「は今後も生命維持のための生活費の支出を要することは明らかであるから、逸失利益の算定に当たり、生活費を控除すべき理由はなく、被告らの主張は採用できない。」
5 コメント
いわゆる植物人間状態になってしまった場合に、平均余命は短くなるとの統計もあり、本件で加害者側はそのような主張をしましたが、認められませんでした。
つまり、平均余命が短くなるかどうかは、本件のような事案では、逸失利益、介護費用等が大幅に変わるため、非常に重要な要素となります。
また、生活費控除は、通常は死亡事案の場合になされます(亡くなった以降は、その人の生活費はかからないため、その分が引かれると言うことです)が、本件のような植物状態でも生きている事案では否定されました。
なお、1級の後遺障害が残った被害者の生活費控除について、
名古屋地裁平成14年1月28日判決は、加害者側の外食費、衣服代、交際費等の支出を免れるから生活費分として1割を控除すべきと主張したのに対し、被害者は将来おむつ、医薬品等の雑貨、通院費用等一般健常者とは異なる出費があるから、そのような控除は認めないと判示しました。