1 被害者

42歳・男子・会社役員

2 傷害の内容

外傷性頸部症候群

3 後遺障害の内容

「原告に残存した右の上腕部のしびれは、本件事故直後から一貫して継続しているものであり、緊張時などに顕著になり、重い物を持てないなど仕事への影響も否定できない。そして、この症状は、第5頸椎と第6頸椎の椎間板の狭小化に伴う神経症状であると考えられており、神経根症状を調べる検査においても陽性の反応が現われるなど、他覚的にも裏付けられている。この第5頸椎と第6頸椎の椎間板の狭小化は加齢性のものであるが、本件事故直後からしびれが発症し、症状の発生源について医学的裏付けが存在する上、その症状の内容も本件事故直後から一貫して継続し、仕事への影響も小さくはないといえるから、自賠法施行令2条別表の後遺障害等級第12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する旨の自動車保険料率算定会の後遺障害認定は相当であるとして、裁判所も12級を認定しました。

 

4 裁判所の判断

① 逸失利益についての基礎収入の認定

「原告の役員報酬は、他の役員の報酬や従業員の給与と比較しても突出しており、売上減少が役員報酬額の減少に関連していることを併せて考えると、原告の業務内容や営業実績などを考慮しても、すべてを労務の対価と評価するのは相当でなく、利益配当部分が含まれていることは否定できない。そして、原告の業務内容、営業実績、他の役員の報酬や従業員の給与との比較に加え、平成7年賃金センサス第1巻第1表企業規模計・産業計・大卒男子40歳から44歳の平均賃金が年間791万6、100円であること(当裁判所に顕著な事実)を併せて考えると、原告の役員報酬中に占める労務の対価部分は、少なくとも年収である1、836万円の60%である年間1、101万6、000円は下らないと評価するのが相当」とした。

② 労働能力喪失期間について

「後遺障害の具体的内容、右の後遺障害等級に関する評価を前提にすれば、原告は、少なくとも10年間にわたり、14%の労働能力を喪失した」

③ 逸失利益

1028万7203円を損害額として認めました。(素因減額は別)

④ 被害者の素因による損害の減額

「原告が有していた第5頸椎と第6頸椎の椎間板の狭小及び骨棘の形成という素因を背景にして、本件事故以前には発症していなかった神経根症状が、本件事故を契機として発症し、その症状の回復が困難な状態になったものと認められる。右の素因は加齢変性ではあるが、原告の症状の内容は、当初からこの素因を前提とする症状が中心であり、後遺障害に至ってはもっぱらこの素因による神経根症状であるから、この素因がなければ、これほど長期の治療期間や後遺障害の発生はなかった可能性が高いということができる。

加えて、原告が内服薬を指示どおり服用しなかったり、通院頻度が少なく治療に専念しなかったことも症状固定時期が遅れた原因として挙げることができるから、これをも併せて考えると、素因が加齢変性ではあっても、損害の公平な分担の見地からは、損害のすべてを加害者に負担させるのは相当でないとというべきである。したがって、治療期間の遷延化の程度や後遺障害の程度に照らし、損害額全体から2割を減額するのが相当」として、2割を減額した。

⑤ 慰謝料 380万円(傷害分、後遺障害分一括)

5 コメント

本件は、被害者の収入が1800万円を超えるなど、相当の高収入であった事案です。会社役員の場合、報酬の全額が逸失利益の算定の基礎収入となるわけではなく、利益配当分と労働の対価部分に分け、労働の対価部分のみが逸失利益算定の基礎となります。本判決は、実収入額の60%を労働の対価と判断しましたが、これは被害者の収入が相当高額であることが前提となっています。

また、被害者の素因として椎間板の狭小や骨棘の形成等により2割を減額しましたが、もともとの損害額が大きいことも影響しているように思われます。