郡山タワー法律事務所の弁護士三瓶正です。

 

むち打ちの治療期間について、

治療がちょっと長引いてくると、

保険会社の中には、昭和63年4月21日の最高裁判所第1小法廷判決を引き合いに出して、

最高裁もむち打ちは長くとも2,3ヶ月以内に治ると言っているのだから、これ以上の治療は認められない。打ち切ります。というケースがあります。

しかし、これは正しい理解ではありません。

この判例に限りませんが、最高裁判所の判決のうち、ある言葉だけを取り出しても意味はありません。

どういう事案の中で、どういうことを判示したのかを正確に理解しなければなりません。

この事案は、いわゆるむち打ち損傷の事案で、被害者は事故発生日から最後の治療まで3年間も通院したケースです。

その判決の中で、

「外傷性頭頸部症候群とは、追突等によるむち打ち機転によつて頭頸部に損傷を受けた患者が示す症状の総称であり、その症状は、身体的原因によつて起こるばかりでなく、外傷を受けたという体験によりさまざまな精神症状を示し、患者の性格、家庭的、社会的、経済的条件、医師の言動等によつても影響を受け、ことに交通事故や労働災害事故等に遭遇した場合に、その事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利があるときには、加害者に対する不満等が原因となつて症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多く、衝撃の程度が軽度で損傷が頸部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまつている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があつても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど一か月以内、長くとも二、三か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である。」

と最高裁は判示しましたが、

これは、むち打ちで3年という通院はあまりにも長い。3年で生じた損害を加害者に負担させるのは酷だ、

だから、損害額の一定額を減額させるのだ、

という結論を導く過程で、「むち打ちは多くのケースでは、1ヶ月、長くても2,3ヶ月で治療は終わるんですよ。3年は長すぎますよ。」

ということを言ったに過ぎません。比較対象は、3年です。

ですから、半年経とうが、痛みや症状が続くのであれば、治療は続けて良いのです。

決して、最高裁は、「むち打ちはほとんどは2,3ヶ月で治るんだから、それ以上の治療を続けても、損害としては認めないよ」ということは言っていません。

現実的にも、むち打ちで1年くらい通院する人はたくさんいますが、そのことで損害額が減額されることは、通常ありません。

いくらなんでも「3年」は長すぎでしょ、と言っているだけです。