郡山タワー法律事務所の弁護士 三瓶正 です。

ついに、人身傷害補償保険(人傷)の件で、最高裁判決が出ました。

今までは、最高裁自体が判断した物はありませんでした。

最高裁判所 第一小法廷 平成24年2月20日

原審裁判所 札幌高等裁判所

判決のエッセンス

人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合,保険金を支払った保険会社は,上記保険金の額と過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る額の範囲で損害賠償請求権を代位取得する

 

わかりにくい判決ですが、簡単に言うと次のようになります。

通常、交通事故に遭った場合に、相手の過失が100%、自分の過失が0%であれば、

自分に生じた損害は100%請求することができます。

しかし、例えば、自分に20%の過失があり、相手に80%の過失があれば、自分に生じた損害の内80%しか相手には請求できません。

ですが、自分が加入している自動車保険に「人身傷害保険」がついている場合は、話は変わります。

 

まず、自分の保険会社に人身傷害保険金を請求します。

次に、損害の残額を80%の過失を有する相手方に請求します(裁判にする必要があります)

相手に請求できるのは、総損害額から人身傷害保険でもらったお金を引いた金額になります。

ただし、人身傷害保険金からもらった金額のうち、自分の過失分は引かなくても良いということになるのです。

いわゆる訴訟基準差額説という考え方で、実務上は固まりつつありましたが、今回の最高裁判決で明確になったと言えると思います。

判決の内容は、人身傷害保険金を支払った保険会社が、加害者にどの範囲で求償できるかという視点から論じているので、かなりわかりにくいのですが、結論としてはそういう結論になると言うことです。

具体的に説明すると、

通常人身傷害保険が4000万円もらえると言う場合、自分の過失は問題になりません。

ここで加害者を訴えて、自分の総損害額は5000万円あるんだ、だから、4000万円もらった残りの1000万円を支払え!という裁判を起こすのです。

そうすると、本来は相手方としては、あなたに過失が20%あるんだから、あなたの損害は4000万円しかないでしょ。4000万円はすでに人身傷害保険会社があなたに払ったんですよ。

そして、80%の過失ある加害者は、あなたに4000万円を払った人身傷害保険会社から4000万円を払えと請求されるのですよ。だから、残額はありません。と言いたいところです。

ところが、この言い分は通用しないということです。

裁判で、あなたの総損害額が5000万円と認定された場合、

加害者が負担すべき80%の金額は4000万円は変わりません。

ですが、人身傷害保険会社はあなたの過失分20%は自分の会社で負担しなさいよ、

だから、人身傷害保険会社が加害者に請求できるのは、3000万円しかだめですよ、

そうすると、加害者は人身傷害保険会社から3000万円しか請求されないのだから、

本来負担すべき4000万円との差額1000万円は加害者が被害者に支払いなさい

ということになります。

つまり、人身傷害保険に加入していれば、自分の過失が0%の場合もある程度過失がある場合も、最終的にもらえる金額は変わらないということになります。

だからこそ、人身傷害保険に、自分で加入することが非常に大切になってきます。

人身傷害保険は、金額無制限のものに必ず入りましょう。(3000万とか5000万とかの制限がある場合と比較して、せいぜい年間1万円くらいしか変わりません。)

 

ポイントは、

①自分の自動車保険に人身傷害保険をつけること

②最終的には、相手方に裁判を起こす必要があること

③人身傷害保険を先にもらうべきか、先に加害者を訴えるべきかは、今後はケースバイケースです。ここは、弁護士に相談してください。

この順番によって、受け取る金額が変わる可能性があります。

ただし、本最高裁判決の補足意見では、解釈としては、どちらを先にするかによって結論が変わるのはおかしいから、同じ結論がでるような解釈をすべきであると述べられています。

 

人身傷害保険に入らないのは、損です。

そして、人身傷害保険に入っているなら、その保険は有効に使いましょう。