13歳男子が脾臓摘出し、8級の認定がされた事案での逸失利益算定方法についての裁判例(神戸地裁平成5年8月6日判決)を紹介します。
1 被害者
13歳・男子
2 傷害の内容
全身打撲、外傷性脾臓破裂 入院27日 通院実治療6日
3 後遺障害の内容
脾臓摘出により、8級11号と認定されました。
4 逸失利益に関する裁判所の判断
被害者は、就労可能となる満18歳に達した後においても、本件後遺障害としての前記症状が継続し、それにより同人の選択する職業の種類、条件等が制約されるものと推認することができ、これにいわゆる労働能力喪失表を参酌して考えると、同人は、満18歳から67歳までの49年間にわたって、その労働能力を40%喪失することになると認めるのが相当であると判示しました。
逸失利益の算定基礎は、昭和63年の賃金センサス・学歴計・男子労働者の全年齢平均給与額455万1000円とし、労働能力喪失率40%、期間を49年間(18から67歳まで)とし、逸失利益の損害として2591万4688円を認めました。
5 コメント
自賠責の労働能力喪失率は、8級の場合、45%が基本になります。
そうすると、一見、本判決は労働能力喪失率を40%にしている点で低い逸失利益しか認めていないようにも見えます。
しかし、脾臓の摘出をしたことにより、労働能力が45%も減少するのかという議論があり、40%は相当高い逸失利益を認めた判断と思われます。
現在は、8級11号はなくなり、脾臓の摘出は、13級11号の認定がされます。そうすると、労働能力喪失率は、基本的に9%となります。
このように、自賠責の等級評価は、現実の症状と照らし合わせて高すぎる、低すぎるという改訂を定期的に行っていますので、被害に遭った時期により、得られる賠償額が変わってしまうと言うこともあります
ただし、脾臓摘出の労働能力喪失を20%から40%程度にすべきという考え方も有力ですので、必ずしも等級に拘束されるわけではありません。
東京地裁平成元年2月10日判決は、20歳男子の脾臓摘出について、脾臓はその役割に不明な点が多く、摘出しても他の期間により代償されるので著名な脱落症状を招くことはないとして、45年間、20%の労働能力喪失を認めました。
大阪地裁平成6年6月27日判決は、20歳男子の脾臓摘出について、45年間、15%の労働能力喪失をみとめました。