1 被害者 20歳男子(事故当時、大学3年生)
2 傷害の内容
脳挫傷、脳内出血等
3 後遺障害の内容
植物状態 1級3号
4 裁判所の判断
① 推定余命年数について
(原告の名前の部分は、被害者におきかえます)
「 被害者は、植物状態にあるが、非常に安定した状態にあり、自宅療養中、肺炎に罹患し、一時危篤状態に陥ったことはあるが、その後は、嘔吐を原因とする数日間の入院があったものの、痙攣もみられず、発熱のほか、痰がからむこともないのであるから、いわゆる植物状態患者としては、安定しており、当分の間、生命の危険を推認させる事情は認められない。したがって、症状固定時の被害者の平均余命については、平成6年簡易生命表22歳男子の該当数値である、55・43年と推認するのが相当である(以下、55年として使用する。)。
この点、被告は、乙二一(自動車事故対策センター作成の調査嘱託回答書)を主たる根拠として、一般的に植物状態患者の平均余命は10年程度であるから、被害者の余命についてもこれと同程度であると主張するが、同資料における、サンプル数は極めて少ないこと、いわゆる植物状態患者を巡る介助及び医療の水準は日進月歩であるというべきところ、同資料は、本件事故が発生した平成5年よりも古い平成4年3月31日までの状況が示されているにすぎないこと、被害者は、前記のとおり、被害者の家族ららの手厚い介護を受けているほか、毎週医師の診療をも受けており、これまでの被害者の状況をみる限り、今後も異常があれば、直ちに医療機関の処置等を受ける態勢が整っていること等の状況に照らすならば、乙二一をもとに被害者の余命年数を推測することは相当でない。」
② 逸失利益について
「被害者は、本件事故当時、大学3年に在籍する学生であり、本件事故に遭わなければ、平成6年4月大学を卒業し、22歳から67歳に達するまでの45年間就労可能であり、症状固定時の賃金センサス平成6年第1巻第1表産業計企業規模計大卒男子労働者全年齢平均の年収額である、674万0,800円を得ることができたと推認されるので、右金額を基礎とし、労働能力喪失率を100㌫としてライプニッツ方式により中間利息を控除して、45年間の逸失利益の、症状固定時の現価を算定すると、次式のとおり、1億1,981万0,979円となる。」
③ 生活費控除について
「 被告は、被害者の将来の生活に必要な費用は治療費と付添介護費 に限定されており、労働能力の再生産に要すべき生活費の支出は必要でないから、生活費を控除すべきであると主張する。しかし、生活費は、必ずしも労働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく、また、被害者は、今後も生命維持のための生活費の支出を要することは明らかである上、自宅療養中の雑費の多くは、逸失利益中から支出されることが見込まれるから、逸失利益の算定に当たり、生活費を控除するのは相当でなく、被告の右主張は、採用できない。」
④ 後遺障害慰謝料として2600万円、近親者慰謝料として400万円認められました。
⑤ 将来分の介護費用(事故時から現在まで含む)として6776万2615円認められました。
5 コメント
植物状態や四肢麻痺で寝たきり状態になり、労働能力喪失率100%の事案においては、相手の保険会社は
① 統計上、推定余命は10年程度しかない
② 逸失利益の判断においては、本人の生活費を控除すべきである
という主張がなされます。
①については、本判決は、統計のサンプルが少ない、医学は日進月歩であるとして、被告の主張を退けました。なお、推定余命が短いと主張する意味は、短くなったとしても逸失利益算定の期間には影響しないはずですが、「将来の介護費用」が不要になるので、そこをねらったものと考えられます。
②については、通常、本人の生活費分を控除するのは被害者が死亡した場合のみですが、自宅で寝たきりの場合は、外食をしない、衣服等も購入しないとして生活費が通常よりもかからないのだから、その分控除すべきという主張がなされることがあります。本判決も否定するとおり、この主張は認められない可能性が高いといえます(亡くなった場合は生活費はかかりませんが、たとえ寝たきりでも雑費等はかかるからです)。