1 被害者 38歳女子

 

2 傷害の内容

頸椎捻挫 (被害者は脊髄損傷を主張)

 

3 後遺障害の内容

 

 

 

4 裁判所の判断

① 原告の症状について

裁判所は、原告が脊髄損傷を負ったことは否定しましたが、次の理由から本件事故後の解離ヒステリー等によって発症したとしました。

 

「原告●が本件事故により脊髄損傷の傷害を負ったものとは認め難いところであるから(他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。)、同原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を負ったにすぎないものといわざるをえないところ、そのヒステリー性格に、本件事故及びこれによる一家4人の入院と同原告が長期間入院生活及び治療という自由を束縛された状態を強いられたことが強い情動因子として作用して解離ヒステリーに罹患し、更に、家族の者の退院時にも自分だけは退院の見込みが立たない状況に直面して、これが新しい情動因子として作用し、また、周囲の過度の庇護、医師と患者である同原告との人間関係のもつれなどが症状を慢性化あるいは増悪化させる因子として作用し、加えて、周囲の者から症状を教え込まれることによる注意固着や暗示作用も新しい症状の形成に大きな役割を果たした結果、解離ヒステリーから転換ヒステリーに移行して、現在転換ヒステリーの症状としての両下肢の弛緩性完全対麻痺、両手指第二指ないし第五指の能動的な伸展不能、左上肢・肩関節の軽度の運動障害、両側前腕遠位部手掌・手背の尺側・第五指・左上腕近位部・肩・胸部・背部の軽度の痛覚・触覚の鈍麻、左側の編幹第九・第一〇胸髄レベル以下足尖までの完全感覚脱失、右側の躯幹同レベル以下約二髄節レベルに帯状の痛覚・触覚の鈍麻及びそれ以下足尖までの完全感覚脱失の各症状が発現しており、車椅子及び長下肢装具を必要とする状況にあるものと認めるのが相当であり、この認定を左右するに足りる証拠はない。」

 

② 因果関係についての判断

「原告●の右障害の発現には、本件事故のほか、同原告のヒステリー性格が一因となっており、加えて、入院中の同原告に対する周囲の過度の庇護や医師と患者である同原告との人間関係のもつれが症状を慢性化あるいは増悪化させる因子として作用し、また、注意固着や暗示作用が新しい症状の形成に大きな役割を果たしたものであるが、同原告の右後遺障害は、前示のとおり、本件事故を契機として発現したものであるばかりでなく、前掲鑑定嘱託の結果及び証人の証言によれば、一般に外傷を契機に軽いヒステリーを発症する事例はかなり多くみられること、一般に人に対して交通事故その他の原因により強い情動因子が加えられた場合、その者がヒステリー性格でない場合であっても解離反応を起こす可能性があるとともに、その者がヒステリー性格である場合には一層解離反応を起こす可能性が高いことが認められ(右認定に反する証拠はない。)ることに鑑みると、同原告の右障害は、本件事故による受傷及びその治療過程で同原告のヒステリー性格等原告側の事情が競合して発症したものと認めるのが相当であり、本件事故と同原告の障害との間には相当因果関係があるもの」としました。

 

 

③ 逸失利益についての判断

逸失利益として2800万2254円の損害額を算定しました。

 

5 コメント

 

本判決は、原告の現在の症状については、肯定したものの、その原因は原告の主張する脊髄損傷が原因ではなく、解離ヒステリー、転換ヒステリーから発症したものであると認定しました。その上で、後遺障害は、事故を契機として発症したものとして因果関係自体は肯定したものの、「原告の前記後遺障害の発現・慢性化ないし増悪化は、本件事故のほか、同原告のヒステリー性格、同原告に対する周囲の過度の庇護や医師と患者である同原告との人間関係のもつれ、周囲の者から病状を教え込まれることによる注意固着や暗示作用、同原告が適切な精神医学的治療を受けなかったことなどに基因するものというべきところ、本件事故を除く右のような事情は、主として被害者側の事情に属するものと評価すべきものである」として、後遺障害の逸失利益、慰謝料等を40%減額しました。