1 被害者
58歳・男子・会社役員
2 傷害の内容
左股関節脱臼骨折、左両下腿骨粉
砕骨折、左膝蓋骨骨折、右膝下腿挫創、顔面打撲兼挫創
3 後遺障害の内容
後遺障害10級
4 裁判所の判断
①逸失利益・労働能力喪失率について
「原告甲野の労働能力喪失率が27%である」
「原告甲野は、原告会社において、企業の所有者であり、経営の責任者であり、かつ、主導的な技術を持つ現場作業員としての役割を担っており、原告会社の売上げの相当部分に貢献し、その報酬には、企業の所有者に対する利益分配、経営者としての業務の対価、労働者としての労務の対価が含まれると認められる。原告甲野の報酬のうち労働者としての労務の対価及び経営者としての業務の対価は月額それぞれ60万円及び20万円と認めるのが相当である。原告甲野の報酬のうち企業の所有者に対する利益分配に相当する部分は原告甲野の労働能力の喪失によっては影響されない。ところで、経営者としての稼働能力については、身体的な障害が直接に影響するものではないが、長期的に見れば、経営者としての管理能力、営業能力等に影響することは否定できない。原告会社の売上げが本件事故直後ではなく、平成13年5月1日から平成14年4月30日までの会計年度に激減したことは、経営者としての原告甲野の本件事故による営業活動の停滞が時差をもって影響したことを推認させる。後遺症障害による経営者としての労働能力喪失率は10%と認めるのが相当である。」
②逸失利益の金額 1263万6624円
③慰謝料 786万円(傷害分、後遺障害分一括)
5 コメント
会社役員が、被害者となり、後遺障害が残存した場合、逸失利益の算定の基礎となる基礎収入は、必ずしも役員報酬の全額ではなく、労働対価部分と利益配当部分に分け、労働対価部分のみが基礎収入に含まれるという判断をするのが通常です。本判決は、さらに、報酬の労働対価部分を、労働者としての労務の対価部分と経営者としての労務の対価部分に分け、労働能力喪失率を労働者としての部分は27%、経営者としての労働能力喪失率を10%とわけて逸失利益の算定をしました。