1 被害者 女子・18歳

2 傷害の内容
硬膜下出血、脳挫傷等

3 後遺障害の内容
神経系統の機能又は精神の著しい障害(著明な脳萎縮と海馬の萎縮、記銘力障害、注意力障害、知能指数(IQ)62、言語性IQ77、動作性IQ54、すべてに監視を要し、他人の介護が必要、左上肢の障害、左肩関節の著しい機能障害、左肘関節の機能障害、左手関節の著しい機能障害、左不全片麻痺左肩から左手指先まで外側の知覚がない、両眼の視野障害、左足第1足指の用廃、右下肢の醜状
以上より併合1級

4 裁判所の判断

① 逸失利益について
「原告は、本件事故当時18歳で、大学1年生であったことからすれば、原告は今後
後記労働能力喪失期間を通じて、平成10年賃金センサス・産業計・企業規模計・大
卒女子全年齢平均賃金である451万3,800円の年収を得られる蓋然性があった
ものと認められる。」労働能力喪失率は「原告に残存した後遺障害の内容・程度に鑑みれば、原告は本件事故により、後記労働能力喪失期間の全期間にわたり、労働能力を100%喪失したものと認めるのが相当」労働能力喪失期間については、「原告の症状固定時における年齢(21歳)を考慮すれば、原告は本件事故がなかったならば就労可能であった22歳から67歳までの期間(21歳から67歳までの46年間のライプニッツ係数17.8800から21歳から22歳までの1年間のライプニッツ係数0.9523を差引いた係数は16.9277)労働能力を喪失したと認めるのが相当である。
以上より7640万8252円を認めました。

②中間利息の控除について

被告保険会社「は、後遺障害逸失利益につき、遅延損害金の発生する事故日から症状固定日までの中間利息を控除すべきであると主張する。しかしながら、中間利息控除と遅延損害金の発生とは必ずしも厳密な論理的関連性はないこと、遅延損害金が単利式で計算されるのに中間利息控除は複利式で計算されること」、被告保険会社「の主張によれば、事故日においては被害者は利殖に回すことができないにもかかわらずその中間利息を控除される結果となるので、被害者に不利益を及ぼすことになること、治療費等の積極損害については実務上中間利息控除を行わないことと均衡を失すること、理論的には賠償すべき後遺障害逸失利益の額は、裁判所において諸般の事情を斟酌して合理的な相当の額を定めれば足りると解されるのであるから、事故日から症状固定日までの中間利息控除を諸般の事情の一つとして斟酌して後遺障害逸失利益の額を定めれば足りると考えられること、実際には運用の必ずしも容易でない複利を基準としたライプニッツ係数を用いて中間利息控除を行うため、後遺障害逸失利益の基準時の点については若干被害者救済の観点を加味した取扱いを行うことも理論的な整合性を欠くことのない限り許容されると思料されることなどを考えると、」被告保険会社の主張は採用できない。

③ 後遺障害慰謝料2200万円

5 コメント

保険会社側の主張は、事故日から症状固定日までの中間利息を控除すべきであるという主張ですが、これは、交通事故においては、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権について、事故日から年5%の遅延損害金がつくために、本件のような症状固定日までに時間がかかり、かつ、損害額の大きい事案では遅延損害金だけでもかなりの金額になるため、(本件は事故日から判決日まで9年かかり、かつ損害額は1億1000万円ですので、遅延損害金だけでも5000万円以上になります)、保険会社としてはできるだけ支払額を少なくするために、事故日から症状固定日までの中間利息を控除すべきという主張をしたものと考えられますが、この主張は認められませんでした。