浦和地裁昭和57年9月27日判決(出典自保ジャーナル476号)

1 被害者は、事故時6歳、症状固定時7歳の女子である。

2 事故による傷害の内容としては、顔面切創により、入院22日間、治療48日間であった。

3 後遺障害の内容としては、額前部中央、眉間、左眼瞼、鼻背、両口角から耳への創痕。

合計で25センチ程度のもの。

自賠責で7級12号に認定された事案。

4  本判決は、「外貌醜状障害の逸失利益について、かような外貌醜状の存在によって、身体的機能そのものには支障はないとしても、女子である原告が将来就職する場合においては、その選択できる職業、職場の範囲は著しく制限される蓋然性が高いことは経験則上明らかである。このことは、単に女優や歌手、ホステス等の容貌が重視される特殊な職業のみならず、一般的に、接客に携わる職業もしくは人の面前や人目に触れる場所において働くことが要求される職業、更には右のような職業ではなくとも、一般に多数の応募者が集まる労働条件のよい企業等において顕著であること、加えて、我国においては企業等の大部分が終身雇用年功序列賃金制度を採っている関係上、特に原告のような外貌醜状のある女子が転職や再就職の機会を得ることは勿論のこと、仮にその機会が与えられたとしても従来以上の労働条件の職業に就くことは事実上きわめて困難なことは公知の事実である(賃金センサスによれば、女子労働者の企業規模による賃金格差は、むしろ中高年において顕著な拡大をみる。)。
 従って、原告は、前記外貌の醜状によって、その労働能力の一部を喪失したものというべきであり、かつそれによって、将来の稼働収入の喪失が生じることが十分予測できる以上、これを一定の基準に従って算定することが相当であるといわなければな
らない。」と判示して、外貌醜状の逸失利益を認めました。

算定基礎は、昭和55年の女子高卒の賃金センサス年190万4100円を前提に、40%の喪失率で、期間は18歳から67歳までの49年間について認めた。具体的な逸失利益の金額は、770万5511円であった。

5 後遺障害慰謝料は1000万円と認定しました。

5 コメント

醜状痕、醜状障害による逸失利益は、従前は機能的な障害はないとして、逸失利益を否定する傾向にありましたが、近時はむしろ認める方向のものが多くなってきているといえます。

機能的な障害がなくても、とくに顔面に目立つ傷があれば、対人関係円滑化を阻害するということで、就労するうえで不利益があるといえるからです。

ただし、逸失利益が認められる場合でも、喪失期間や喪失率において、機能障害の場合と比較すると若干低めになる傾向があります。

もちろん、逸失利益の算定は、自賠責の等級表の喪失率等は参考にはなりますが、具体的事案においてケースバイケースという側面がありますので、醜状障害の場合だけが特殊なわけではありません。