◎中間利息控除の方法として、ライプニッツ方式の採用について

(一) 交通事故による逸失利益の算定における中間利息の控除方法については、特段の事情のない限り、年5分の割合によるライプニッツ方式を採用する。
(二) この点、逸失利益の算定における中間利息の控除方法としては、ライプニッツ方式とホフマン方式があるが、ライプニッツ方式によっても(最高裁昭和50年(オ)第656号同53年10月20日第2小法廷判決・民集32巻7号1500頁、最高裁昭和56年(オ)第498号同56年10月8日第1小法廷判決・裁判集民事134号39頁参照)、また、ホフマン方式によっても(最高裁平成元年(オ)第1479号同2年3月23日第2小法廷判決・裁判集民事159号317頁参照)、いずれも不合理とはいえないものとされている。
(三) 逸失利益の算定において、適正かつ妥当な損害額を求めるためには、基礎収入の認定方法と中間利息の控除方法とを、具体的妥当性をもって整合的に関連させることが必要である。    ところで、ライプニッツ方式とホフマン方式との間で係数に顕著な差異が生じるのは、中間利息の控除期間が長期間にわたる場合であるが、その典型例というべき幼児、生徒、学生等の若年者の場合には、基礎収入の認定につき、初任給固定賃金ではなく比較的高額の全年齢平均賃金を広く用いることとしていることとの均衡、及び、ホフマン方式(年別・単利・利率年5分)の場合には、就労可能年数が36年以上になるときは、賠償金元本から生じる年5分の利息額が年間の逸失利益額を超えてしまうという不合理な結果となるのに対し、ライプニッツ方式(年別・複利・利率年5分)の場合には、そのような結果が生じないことなどを考慮すると、中間利息の控除方法としては、ライプニッツ方式を採用することが相当であると考えられる。
(四) なお、中間利息の控除方法としてライプニッツ方式を採用する場合に、用いるべき中間利息の利率を一般に採用されている年5分とするか、実質金利ないし公定歩合を考慮した利率とするかという問題がある。確かに、最近の金利状況に照らせば、定期預金等による資金運用によっても年5分の割合による複利の利回りでの運用利益をあげることが困難な社会情勢にあることは否めないところではある。 しかしながら、他方で、損害賠償金元本に附帯する遅延損害金については民事法定利率が年5分とされていること(民法404条参照)、過去の経験に基づいて長期的に見れば年5分の利率は必ずしも不相当とはいえないと考えられること、個々の事案ごとに利率の認定作業をすることは、非常に困難であるのみならず、大量の交通事故による損害賠償請求事件の適正かつ迅速な処理の要請による損害の定額化及び定型化の方針に反すること、などの事情も存在する。
(五) そこで、このような諸事情を総合的に考慮すると、逸失利益の算定における中間利息の控除方法としては、特段の事情のない限り、年5分の割合によるライプニッツ方式を採用することが相当と判断した。