12級相当の後遺障害を負った男子高校生である被害者が、別件の交通事故で死亡した事案につき、別件交通事故の場、右死亡の事実をもって後遺障害による逸失利益が中断することはないものと、死亡後の逸失利益を認めた裁判例(東京高裁平成5年9月19日)を紹介します。

1 被害者 高校生

2 傷害の内容

  右膝開放骨折、右第5中手骨骨折  入院91日 自宅療養129日

3 後遺障害の内容   12級 

4 逸失利益  232万5000円

5 別の事故により、被害者が死亡した場合には、前の事故の加害者は死亡したとき以降の逸失利益を賠償する必要があるかについて、本判決は
「被控訴人A、はBが別件事故で死亡した時点で逸失利益の発生が中断する旨主張する。しかし、Bは本件事故に基づく後遺障害により右14%の労働能力を喪失したことにより、本件事故と相当因果関係のある損害として右逸失利益が生じたも
のであって、別件事故による死亡ではこれを除いた残りの労働能力が失われたことになる(損害の補償がされるとすれば残りの労働能力について生じる)のであるから、本件事故後の死亡原因が病死、自殺その他これに類する場合はともかくとして、別
の交通事故によって死亡したとしても右逸失利益の発生が中断するということはできない。」と判示しました。

6 コメント
  14%の逸失利益を被害者が死亡した後にどちらの事故の加害者が負担すべきかという問題については2とおりの考え方があります。

①一つめは、前の事故の加害者は死亡とは関係がないから、死亡時までの14%の逸失利益を賠償すればよいのであり、その後の逸失利益100%分は死亡した事故の加害者が賠償すべきという考え方

②二つめは、前の事故の加害者は、被害者の死亡には関係なく14%の逸失利益を賠償する必要がある。その後に、別の事故で死亡した場合は、86%残っていた逸失利益分を別の事故の加害者が賠償すべきと言う考え方

本判決は、別の事故による死亡の場合は、②をとることを明らかにしました。