自動車保険の特約の一つに「搭乗者傷害保険金」というものがあります。

文字通り、自動車保険の契約自動車に「搭乗」している場合、つまり、その車に乗っていた人が傷害を負ったり死亡したりした場合に支払われる保険金です。

被害者が自分の自動車につけている保険から搭乗者傷害保険金が出た場合は、加害者に請求する損害賠償額には影響しません。

これは、自分で保険料を払った結果、保険金が下りただけの話であり、保険金をもらったことは加害者には関係がないからです。

それでは、被害者が「加害者」の運転する自動車に乗っていて、加害者が加入していた保険から搭乗者傷害保険金が出た場合はどうでしょうか?

最高裁判所平成7年1月30日判決は、「搭乗者傷害保険金を損害額から控除しない」という判断を明確にしました。

つまり、搭乗者傷害保険金を受領しても、加害者に対する損害賠償金からその金額を引きませんよ、という判断です。

ところが、話はここでは終わりません。

加害者が加入していた保険から、搭乗者傷害保険金が下りたときは、結局は加害者側の負担で保険金が支払われたのだから、加害者が払ったと同じではないか、搭乗者傷害保険金がある場合と、ない場合で、加害者が支払う賠償金が変わらないのはおかしいではないのか、という議論があるのです。

そして、現実にも、下級審裁判例の中には、「搭乗者傷害保険金を受領した場合は、慰謝料の算定において斟酌する」というものがあります。

搭乗者傷害保険金をもらったということは、加害者が誠意を尽くした結果という部分もあるんだから、慰謝料を計算する場合には、そのことを考慮に入れますよ。という内容です。

搭乗者傷害保険金は死亡事故の場合には、1000万円受領できる場合があります。

(金額は、保険の内容によります。)

前述の搭乗者傷害保険金を受領した場合は、慰謝料の算定において斟酌するという裁判例は、搭乗者保険金の2割から3割分慰謝料を減額しますので、1000万円もらった場合は、200万円から300万円加害者に対する慰謝料請求額が減額されることになります。

最高裁が明らかに「控除しない」と言っているのに、不明確な内容の「斟酌」によって慰謝料を減額するのは明らかに不当です。とはいっても、下級審裁判例上は上記のような流れもありますので、搭乗者傷害保険金を受領する場合は、そのことを考慮する必要があります。

加害者に対する損害賠償請求訴訟を先に提起して、終了した後に搭乗者傷害保険金を受領したらどうなるか?慰謝料算定の際に、まだもらっていない搭乗者傷害保険金があることを斟酌されるのかどうか、については裁判例が見あたりません。非常に興味のあるところです。

なお、損害賠償金には税金がかかりませんが、搭乗者傷害保険金には税金がかかります。

この点で、搭乗者傷害保険金はあまりよい保険ではないといえますね。