1 被害者 27歳(症状固定時)・男子
2 傷害の内容
急性硬膜下血腫、脳挫傷、肋骨骨折、外傷性くも膜下出血、肺挫傷、両側前腕開放骨折等
3 後遺障害の内容
頭部外傷に伴う歩行障害、記憶障害、認知障害、外傷性てんかん、失調性、構音障害、
嗅覚障害等の症状により、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常時介護を
要するものと判断され、後遺障害1級3号の認定を受け、さらに半盲症については同
9級3号の認定を受け、併合1級。
4 裁判所の判断
①逸失利益について
「原告太郎は、平成8年の大学院研究科修士課程1年在籍中に、D製薬の入社
試験に合格し、内定を得、平成9年4月から同社へ入社するまでの3年間、さらなる
研鑚を積むために学業に専念するよう、同社から月10万円の奨学金を受けていた。
製薬会社からの奨学金制度は、厳しい審査を経てごく一部の学業優秀な者のみに与
えられるのであって、大学院研究科においても、年間3~4名しか対象とならない。」
「原告太郎が、平成12年4月にD製薬に入社することは確実であった。」
「D製薬における収入を考慮する場合、原告太郎は、同社の賃金体系に従って、昇給・昇進し、同社において少なくとも8等級の次長になる蓋然性は高いものと認めることができる。
「D製薬に28歳から60歳まで勤め次長になった場合の生涯賃金によれば、原告太
郎がD製薬においておおむね得られる蓋然性のある年収は、別紙のとおりであるとこ
ろ、これと最新の統計資料である平成14年度賃金センサス第1巻第1表・男性労働
者・大学卒の年収とを比較すると、原告太郎がおおむね得られる蓋然性のある年収は
同賃金センサスの当該年齢に対応する年収額の約1.4倍強と解される。」
「少なくとも最新の統計資料である平成14年度賃金センサス第1巻第1表・企業規模計・男性労働者・大学卒・全年齢平均賃金である674万4700円の1.4倍にあたる944万2,580円を得られるものとして、原告太郎の逸失利益を算定することとする。」。
「平成14年度賃金センサス第1巻第1表によれば、企業規模計・男性労働者・大学卒・60歳から64歳までの平均年収は747万5,400円であり、この金額を基礎として、ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除して60歳から67歳までの7年間の逸失利益を計算すると、本件事故時における現価は864万5,300円となる。」
以上より、裁判所は原告に逸失利益として1億5074万9519円を認めました。
5 コメント
本判決は、大学院生である被害者が、大学院修士課程1年次において、D製薬に入社することが内定しており、かつ、厳しい審査が必要とされる奨学金を受領していたことから、D製薬の賃金規定を考慮した上で、近似値である賃セの1.4倍の数字で逸失利益の基礎収入を算定しました。
通常は、このような高額の基礎収入が認定されることは少ないと思いますが、本件は被害者が一般人と比較しても高額の収入が得られる可能性が高いため、このような認定になったと考えられます。