1 被害者
40歳・男子・調理師(会社役員)
2 傷害の内容
左横隔膜破裂、左肋骨骨折、肺挫傷、肝損傷、左血胸、左下葉無気肺、脾損傷、顔面舌裂創、左鎖骨骨折、左第八、第九肋骨骨折、左膝関節部挫傷、左足関節部挫傷、歯折損等
3 後遺障害の内容
12級5号
4 裁判所の判断
① 逸失利益について
裁判所は、逸失利益として1115万6780円を認めました。
「原告は症状固定時40歳であり、本件事故当時会社に勤務し、平成7年には553万2800円の収入があったこと、原告は、平成7年6月に会社の取締役になり、その後しばらくしてから取締役報酬として月額3万円を支給されるようになったものであること、原告は、調理師の免許を有し、本件事故当時は店長の地位にあったが、9割程度は調理に携わっており、そのほかに取締役として5、6店舗を回り、労務管理や従業員の指導監督をする等していたこと、原告は、左鎖骨や肋骨を骨折したため、フライパンを長い間持っていると疲れ、また、長時間立っていると疲れるなどの不都合が生じているが、本件事故によって減収したことはなく、同期の他の従業員と比べて得に昇給が遅れたということもないこと、会社の代表取締役は、原告の働きぶりを評価して原告を取締役とするとともに、前記のような調理以外の業務を行わせるようになり、将来的には原告を会社の幹部候補にと考えていたが、原告が本件事故に遭ったことから、原告が従来期待していた業務を今後こなして行くことは困難であろうと考えていること、代表取締役は、原告の就労は本件事故前のものには及ばなくなっているが、原告の状態を考慮して減給措置をとることは控えていることが認められる。」
「原告は、会社から1か月当たり3万円の取締役報酬の支払を受けているが、右は利益配当の性格を有するものとはいえず、前記原告の就労内客に照らせばその実質は賃金と異なるものではないと認められる。そして、原告には本件事故による減収は生じていないとはいうものの、会社において将来幹部の地位に就いてそれに応じた収入を得ることは期待できなくなったものと認められ、しかも、原告に減収が生じていないのは代表取締役の情誼的配慮によるものであり、今後とも右のような状態が続く保証はないこと、将来原告が転職した場合には原告の後遺障害が減収に結び付くことは容易に窺われることに照らすと、原告は、前記後遺障害により就労可能と認められる67歳までの27年間にわたって少なくとも労働能力の12パーセントを喪失したものと認めるのが相当であり、原告の前記収入を基礎に右期間に相当する年5分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除する」(被害者の氏名、会社名は除いた)
② 後遺障害慰謝料 210万円
5 コメント
逸失利益については、いわゆる労働能力喪失説という考え方をするのが通常です。つまり、現実に減収が生じたかどうかに関係なく、将来の減収の可能性があれば、減収分について損害と認めるという考え方です。本判決も、具体的な事情を詳細に認定した上で、将来の減収可能性を肯定し、逸失利益を27年にわたり12%の計算で認めています。