1 被害者 20歳・男子(症状固定時25歳)

2 傷害の内容  脳挫傷、頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫

3 後遺障害の内容
  頭部外傷後の神経症状 5級

4 裁判所の判断

① 逸失利益
「原告の後遺障害は高次脳機能障害であるが、その具体的な症状としては、四肢の運動麻痺はなく、神経学臨床検査においても、左手に軽度の振せんを認める以外には特に異常はなく、歩行や日常生活動作の障害は認められない。しかし、会話中の声も小さく、かつ認知障害、脱抑制、発動性の低下などによる意欲やコミュニケーション上の障害が軽度に認められるというものである。」
「原告は、本件事故後に前記大学の工学部建設学科を卒業し、その際卒業論文も提出しているし、日常生活に大きな支障はない。」
「しかしながら、就職の点では、筆記試験に合格しても面接試験で不採用になるなど、未だに安定した職に就けず、職業訓練校に通うなどの努力はしているものの現時点において就職の見込はたっていない。また、感情抑制ができず、コミュニケーションをうまくとれないために対人関係でも問題を起こしがちである。
 以上によれば、原告は、家庭内における日常生活には支障はなく、潜在的な知的
能力はあるが、社会の中で適応し、自己の能力を発揮する、とりわけ仕事に就くこ
とには今暫くの努力を要するものと認められ、また、就職した際も安定して就業で
きるかは疑問であり、原告の担当できる職務内容もおのずから相当限定されざるを
得ないものと思料される。
 原告が本件事故当時大学生であり、大学卒業後は当然大学で身につけた専門的知
識等を活用して社会に貢献し、右貢献に相応しい収入を得られたであろうことから
すれば、後遺障害による労働能力喪失率は、原告の日常生活上の不都合よりも相当
大きなものと評価すべきである。
 原告が本件事故当時大学生であったことを考慮し、基礎収入を、原告の主張どお
り、男子大卒の全年齢平均賃金(平成8年)とし、労働能力喪失率を60%、稼働
可能年数を67歳までの42年(症状固定は平成9年10月である(証拠略)から、
症状固定時において原告は25歳である。)として、事故時点における現価(年5
%のライプニッツ方式により、事故時から67歳までの45年の係数から事故時か
ら症状固定時までの4年の係数を引く。)を求めると、次のとおりとなる。
 680万9600円×0・6×(17・88-3・5459)=5856万56
92円 

② 留年分の授業料について
授業料 37万5600円を損害として、認めました。
本件事故の影響により1年留年を余儀なくされたのであるから、その間の授業料は本件と相当因果関係のある損害とし、37万5600円を認めましたが、「平成9年3月卒業後も、就職活動をできるだけ有利に展開するために同大学に研究生として籍を置いたとして、その間の費用(合計24万6200円)をも損害として請求しているが」、相当因果関係がないとして否定しています。
③ 慰謝料 1300万円
 後遺傷害分と入通院分を一括して1300万円を認定しました。

5 コメント
  等級表によると、5級の労働能力喪失率は79%ですが、本件被害者は日常生活等は不都合はないこと等が重視された一方、感情抑制ができず、コミュニケーションをうまくとれず就職の見込みが立っていないことも考慮し、60%を認定したものと思われます。