年少女子未就労者の逸失利益につき全年齢の全労働者平均賃金を基礎として算定した裁判例(大阪地裁判決平成14年5月31日)を紹介します。

1 被害者  6歳の女子、症状固定時7歳

2 傷害の内容

右足第4,第5指切断、右足関節部及び右足裏部皮膚消失等で入院98日間、通院日数186日間の治療を受けた。

3 後遺障害の内容

右足第4,第5指喪失、右足第1ないし第3足指機能障害、右足荷重困難、歩行時疼痛等により8級の認定を受けた。

4 逸失利益の判断

裁判所は、逸失利益算定の基礎として、496万7100円・平成11年賃金センサス・学歴計全年齢の全労働者平均賃金を使用し、労働能力喪失率45%、期間49年間として算定し、2374万4029円を認めました。

裁判所は、「賃金センサスは、現在就労する労働者の収入に関する限り、現実の労働市場における男女間の賃金格差等の実態を反映したものということができるけれども、就労開始までに相当な期間のある年少者の場合にこれをそのまま当てはめることは、将来の社会状況や労働環境等の変化を無視することになり、交通事故被害者の内、特に年少女子に対し、公平さを欠く結果となりかねない。何故なら、今日では、雇用機会均等法の施行や労働基準法における女性保護規定の撤廃、あるいは男女共同参画社会基本法の施行等、女性の労働環境を取り巻く法制度がある程度整備され、それに伴って女性の職域、就労形態等が大きく変化しつつあるということができ、現実社会において、男性と同等かそれ以上の能力を発揮し、男性並みの賃金を取得している女性は決して珍しい存在ではなくなってきているからである。
 本件について検討すると、原告の症状固定時の賃金センサスにおいて、男子労働者の平均賃金と女子労働者のそれとでは、年収にして217万0400円の開きがあるところ、原告が本件事故当時においては6歳、症状固定時には未だ7歳で小学校2年
生に在籍中であり、就労を開始するものと一応見込まれる18歳の年齢に達するまでには約11年間を要し、前記のような社会状況等の変化を踏まえれば、同女が将来男性並みに働き、男性並みの収入を得られる蓋然性は相当程度認められるというべきで
あるから、女子平均賃金をもって基礎収入とするのは損害の公平な分担という見地からして相当であるとはいいがたく、むしろ、年少者の職域や就労形態の多様な可能性を考慮すれば、全労働者の平均賃金をもって逸失利益算定の基礎収入とするのが相当というべきである。」と判示しました。

5 コメント

年少者の将来の収入は、不確定な要素が強いため、全労働者の賃金センサスを利用して算定している点で、男女格差を解消する方向に向かっている裁判例です。しかしながら、男子の場合は男子の平均賃金センサスを使用するため、さらに高額な逸失利益になる傾向があり、格差はなくなったとはいえません。

つまり、女子労働者の賃金センサスを利用する場合よりは、女子の逸失利益が高く認められるが、男子の場合よりは少なくなってしまうのが現状です。

また、本判決においては、将来の足底再建手術費用として230万円認められています。