死亡事故の被害者遺族が知っておくべき8つの知識
1 加害者に損害賠償請求をできる人は誰?
被害者が亡くなられた場合に、加害者に損害賠償請求をできるのは、原則として被害者の法定相続人です。遺産分割手続等はしている必要はありません。
法定相続人かどうかは、被害者の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて追っていくことにより判明します。
また、被害者の法定相続人ではない場合でも損害賠償請求をできる場合があります。
①例えば、被害者が膨大な借金を有していたような場合は、賠償請求権を相続して請求すると、膨大な借金も相続してしまうことになるため、相続放棄をすることがあります。
このように、相続放棄をした場合でも、被害者の収入に頼り生活をしていた人は不要利益が侵害されたとして、損害賠償請求をすることができることがあります。
②さらに、もう一つは、内縁の妻の場合です。
内縁の妻は、法律上は婚姻関係にないので、相続人ではありません。しかし、内縁の妻が、被害者の収入により生活していた場合には、生活の道が閉ざされてしまうことになりかねないので、不要利益の侵害として、一定の賠償請求が可能になります。
2 慰謝料について
(1) 被害者が死亡した場合の慰謝料は、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準とおおむね決まっています。これは、各項目に記載してありますので、ご参照下さい。
裁判基準では、
一家の柱 2800万円
母親、配偶者 2400万円
その他 2000万円から2200万円
を基本に、具体的な事情に応じて、増減がされることもあります。
(2) 慰謝料の増額事由としては、加害者の行為の悪質性、たとえば、無免許、飲酒運転、著しいスピード違反、わざと赤信号を無視したというような場合や、事故後ひき逃げ等をしたような場合に認められることがあります。
我が国においては、アメリカのように懲罰金という罰を与える意味での損害賠償は認められていませんので、天文学的な数字になることはありません。
また、加害者が一度も謝罪に来ない、保険会社の対応が悪いと言った事情は、遺族の感情を逆撫でするものであり、きちんとした対応をすべきであることは当然ですが、このような事情は、すでに裁判基準の慰謝料算定の中に含まれていると考えられており、慰謝料の増額事由にはならないと考えた方が良いです(裏を返すと、遺族が加害者の対応に不満を抱くようなケースは日常茶飯事に起きていると言うことなのかもしれません)。
3 逸失利益について
(1) 逸失利益とは、簡単にいいますと将来の休業損害です。
もし、生きていれば将来にわたり一定の収入が得られたのに、事故により死亡したため、働くことができなくなり、収入が得られなくなったことに対する賠償のことをいいます。
(2) 一口に、将来にわたり得られたはずの収入の補償といっても、人により収入は違うし、若い人は将来収入が上がった可能性もあります。
そこで、現在の収入額をベースに計算することが基本ではありますが、将来収入が上がることが客観的資料により確実であるときはそれに基づいた金額で請求することも可能です。例えば、公務員や大手企業であれば、従業員の平均年収等の資料があるかどうかです。
賃金センサス程度の収入が得られる蓋然性がある場合は、現在の収入が低くても賃金センサスベースでの算定が可能です。
また、30歳未満の若年者の場合は、平均賃金センサスを用います。平成25年の男子賃金センサスは、524万1000円です。また、女子の賃金センサスは353万9300円です。
なお、女子であっても男子と同様の給与体系で、男子と同様の収入が得られる場合は、男子の賃金センサスで算定することとなります。
家事従事者や主婦の場合は、女子の賃金センサスで算定します。
また、無職の人や休職中の人でも、労働の能力と意欲がある限りは逸失利益は発生します。ただし、無職の期間が長い場合は、基礎収入を減額されたり等の不利益な算定になることもあります。
(3) 逸失利益請求の期間はいつまでか?
原則として,死亡時から67歳までの期間です。しかし、死亡時年齢が67歳を越えている場合は、平均余命の2分の1の期間について認められます。
また、67歳までの期間と平均余命の2分の1の期間を比較して平均余命の2分の1の期間が長い場合はそちらの期間になります。
(4) 生活費の控除とは?
逸失利益は、死亡した場合に、将来得られたはずの収入を賠償をしてもらうものです。そうすると、もし、生きていれば、被害者本人も生活のためにお金を使ったはずだ、という理屈になります。ですが、被害者本人は死亡しているので生活費はかかりません。
そこで、本人の生活費分は引いた金額を請求できることになっています。これを生活費の控除といいます。
具体的な控除率は、
一家の支柱 被扶養者1人 40%
被扶養者2人 30%
それ以外の男性 50%
女性 30%
男性と女性で生活費控除率が違うのは、現実に生活費をどれだけ使うかと言うことではなく、おそらく、もともとの収入に男女差があり、男性の方が収入が多いことがよくあるため、女性の生活費控除率は低めに設定し、調整していると思われます。
(5) ライプニッツ係数とは?
ライプニッツ係数とは、中間控除式の一つです。現在の裁判実務は、中間利息を控除する際に、ライプニッツ係数を使用します。簡単に言いますと年利5%の複利です。
本来、賠償金のうち、逸失利益は、場合によっては20年後、30年後に受け取るべきお金を今すぐうけとるので、この長期間に渡り運用できるはずだ、そうであれば、その分はひくのが公平だ、ということで中間利息は控除されることになっています。
(6) 以上のような内容を踏まえて、逸失利益を算定することとなります。
4 死亡した直接の原因が事故で受傷した傷害と違う場合
交通事故により受傷した原因とは別の原因で死亡した場合に、どこまでの損害賠償請求ができるか、と言う問題があります。
例えば、高齢者が、交通事故により寝たきりになってしまった結果、誤嚥性肺炎で死亡したという場合、直接の死因は誤嚥性肺炎ですので、交通事故の怪我ではありません。しかし、もともとの交通事故による怪我により入院を余儀なくされたと言う場合、事故が原因で死亡したと評価されうるものです。
また、交通事故の傷害を負った後、将来を悲観して自殺してしまうケースもあります。
いずれの場合も、当然に死亡の結果と事故とが関係づけることはできなくても、様々な資料や事情を検討する事により、死亡の賠償金が認められることもあります。
あきらめずに、検討する事も大切です。
5 遺族が独自に請求できるもの
(1) 葬儀費用
遺族が葬儀費用を支払った場合には、葬儀費用が損害として加害者に賠償請求ができます。ただし、裁判基準では上限が150万円とされています。これは、人はいずれ亡くなることからいずれ自費で葬儀をする必要があったと考えられることと、香典も入ってくるということとのバランスからと考えられます。
(2) 遺族の交通費等
遺族が、被害者を看病したり、お見舞いに行ったりといった必要な実費は請求することができます。
(3) 独自の慰謝料
遺族独自の慰謝料が認められるケースがないわけではありませんが、通常は、被害者本人の慰謝料を相続するので、そこに遺族の慰謝料も含まれている、と考えることになります。
6 刑事責任、行政上の責任と民事責任の関係
交通事故で死亡事故が発生した場合、加害者には3つの責任が発生したと言えます。①は刑事上の責任。②は行政上の責任。③は民事上の責任です。
①の刑事責任は、
まず、警察や検察などの捜査機関が捜査をします。そして、A加害者を起訴するか不起訴にするか、B起訴する場合には正式裁判か略式裁判かの処分が決まります。
正式裁判(公判請求)が請求された場合は、裁判所において裁判がなされます。略式裁判とは、罰金の裁判です。
被害者の遺族は、検察庁の不起訴処分等に不服がある場合には、検察審査会に申立をすることができます。被害者の遺族は、もしどうしても加害者を起訴してほしい、不起訴は避けてほしいと言う場合は、最終処分が決まる前に、検察官に強く意見を言うべきです。
なお、起訴されるか、正式裁判か、略式かというのは、事故の態様や加害者の過去の犯罪歴、被害者の落ち度など、結果の重大性の他にも様々な事情を考慮して決められますので、死亡事故であるから、必ず起訴されるわけではありません。
通常の自動車運転過失致死事件の場合は、加害者である被疑者が逮捕されないケースやすぐに釈放されるケースが多いので、逮捕勾留されている事件と比較すると、検察官の処分までに時間がかかることが多く、起訴されるまでに半年以上かかるケースもめずらしくありません。
正式裁判がなされる場合は、後に述べるような「被害者参加」という形態で遺族も刑事裁判で、意見を述べたり、質問したりすることができます。
②の行政上の責任とは、
運転免許の停止や取り消し等の行政処分のことをいいます。
死亡事故を起こした加害者は、免許が取り消さられることも多いです。さらに、欠格期間といって、単なる取り消しだけでなく、一定期間自動車運転免許を取ることができない、という場合もあります。
行政処分がなされる時期も、特に決まってはおらず、刑事責任の確定ともあまり送関係はありません。被害者の遺族が、行政処分においてできることはほとんどありません。
③の民事上の責任が、いわゆる損害賠償請求です。
時期的には、いつから始めるかということは特に決まっていませんが、少なくとも49日が経過してから,具体的に手続が進められるのが一般です。
事故時から3年が経過すると損害賠償請求権が時効消滅する危険がありますので、早めに対応することが大切です。行政上の責任や刑事責任と民事責任は基本的にはまったく別個に進むべきものですので、たとえば、民事の賠償手続を進めるには刑事責任が決まる必要はなく、両者に時間的な関係はありません。
ただし、例外的に,加害者が責任を否定しているようなケースでは刑事責任が決まるのを待ってからの方が良い場合も考えられます。
7 検察審査会への申立について
検察審査会の申立は、遺族が、加害者の処罰を求めるような場合に、加害者が不起訴処分になったときに、不起訴処分の当否を一般国民から選ばれた検察審査員が審査をするものです。
遺族等が検察官の不起訴処分はおかしいとして、審査を求めると、検察審査会は「起訴相当」、「不起訴不当」、「不起訴相当」の議決をします。起訴相当、不起訴不当の議決がなされた場合には、再度検察官は、処分について検討します。検察官は,審査会の議決を尊重はしますが、拘束されるわけではありません。
起訴相当のけ次がなされたにもかかわらず、検察官が再度不起訴処分をした場合は、検察審査会は再度起訴議決をすることができます。この場合は、当然に起訴されたことになります。
8 被害者参加について
被害者の遺族は、一定の範囲に限られますが、刑事事件に直接参加することができます。もともと、刑事事件において、被害者や被害者の遺族は、手続に参加することができませんでした。平成12年の刑事訴訟法改正により、被害者参加が一定の範囲で認められるようになりました。
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