高齢者の死亡事故

70歳を超える高齢者の方が交通事故の被害者にあった場合、若年者とは若干違う要素がありますので、損害賠償の請求手続を進めていく上では、主張・立証に特別な注意が必要とされます。

逸失利益の算定 

死亡した場合、あるいは後遺障害が残存した場合、将来の収入がなくなる、あるいは減少するので、本来得られるはずだったのに得られなかった収入のことを逸失利益といいます。

高齢者であっても、理論上は逸失利益は認められます。

ただし、現実には働いていない方が多いと思いますので、その場合は労働分の逸失利益は否定されることになります。

働いている場合は、逸失利益の計算は67歳までを就労可能期間と見ることが多いのですが、すでに67歳になっている場合や、67歳までの期間と平均余命の2分の1の期間を比較して

いずれか長い方の期間について逸失利益が認められます。

平均余命とは、ある年齢の人が後何年生きられるかという期待値のことを言い、統計により明らかにされます。

何歳になっても、平均余命がゼロになることはありません。

例えば、平成22年の統計によると、70歳女性の平均余命は19.53年
80歳男性の平均余命は8.57年 となっています。

国民年金や厚生年金を受給している場合は、平均余命の期間分の年金受給額が逸失利益になります。ただし、生活費は控除されます(控除の割合はケースバイケース)。

ただし、家事従事者(主婦、主夫、誰かのために家事をしている人)については、具体的な事情を主張立証することが条件になりますが、高齢者であっても逸失利益は認められるケースは多いと言えます。

死亡慰謝料について

基本的には、裁判上の基準は2000万円から2400万円で認定されるケースが多いと言えます。

ただし、高齢者であることを理由に慰謝料を減額しているようなケースも少数ですがあります。

当事務所で扱った事例では、高齢であることを理由に慰謝料を減額されたケースは、現在までありません。

因果関係の問題について

高齢者の方が、交通事故の被害にあわれたとき、「死亡の結果」と「交通事故」との間に因果関係があるかどうかが問題になることがあります。

例えば、交通事故が原因で寝たきりの生活になってしまったが、そのために体力がなくなり、誤嚥性肺炎などを引き起こして亡くなられたというような場合です。

一見すると、交通事故とは関係のない理由で亡くなられた場合であっても、事故の態様やその後の症状の経過、死亡に対して交通事故が与えた影響等を考慮して、因果関係が認められる場合もあります。

高齢者 死亡との因果関係

高齢者の方が交通事故により寝たきりになり、直接の死因は交通事故と関係のないように見える場合、交通事故が原因で死亡したといえるのか?

という問題は、法的には「交通事故と死亡の間に相当因果関係があるか」という問題として語られます。

この場合は、①相当因果関係が認められるか、②認められる場合に損害の算定において被害者側の事情が考慮されるかという問題に分けられます。

○大阪地判平成8年1月25日は、事故発生後から2年半後(症状固定から9ヶ月後)に肺炎を併発して死亡した場合に、事故と死亡の因果関係を認めた。

受傷の内容は、外傷性クモ膜下出血、頭蓋骨底骨折、小脳挫傷、左多発肋骨骨折等の重傷で、自賠責等級1級3号に認定されていた事案。

○神戸地判平成8年5月23日は、事故の発生後1年後に肺炎と呼吸中枢の機能障害から引き起こされた呼吸不全による死亡について、

事故と死亡との間の因果関係を認めた上、高齢による抵抗力、免疫力の低下等が寄与したものとして、死亡に関する損害の30%を減額した。

○札幌地判平成9年6月17日は、事故発生後3年後に間質性肺炎を遠因、急性腎不全を近因とする急性心肺不全による死亡について、

事故と死亡との相当因果関係を否定した。頭部外傷、急性硬膜下血腫により、自賠責7級4号に認定されていた事案。

○神戸地判平成10年7月9日は、81歳女性が事故発生後24日後に脳浮腫を原因として死亡した事案について、因果関係を認めた上で、

死亡の原因は、既往症であった心臓弁膜症のための投薬中止と全身状態の悪化によるものとして、損害の50%を減額した。

○東京地判平成11年2月23日は、事故発生後55日後に肝不全により死亡した64歳の男性について、事故と死亡の因果関係を認めた上で、

既往症である肝硬変を理由に損害の40%を減額した。


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